::: Artist's text
/ F

_F は,2009年に開始された,void と知覚を横断する造形プロジェクトである.
今回の個展では,F - void sampleと,F - life _proto の2作品が展示される.(プロジェクト内の作品数は不定で,現作品を含む3作品の制作が予定されている.)
それぞれの作品は,知覚領域外としての void から始まる.
作品システムの構造として実装される void は,システムの構成要素である,オブジェクトの内部観測者的な視点から成立する初期状態であると同時に,そこから生成される,体験者の知覚世界の内外を不定にする現象としても捉えられる.
知覚領域外である void には,既存の身体性をベースにした造形とは異なる,計算による生成,という手法によって,アクセス可能になる.
計算に用いるものは,機械や生体などを問わない.現時点で,個人レベルの創作活動でスマートに扱えることから,作品を稼動させる低次元の計算には,コンピュータを用いている.その計算の性質を示しつつ,自明の身体性に留まる造形との対比の為に,ここでの造形を離散造形と呼ぶ.
離散造形は,表現のフレームワークとして自明のものとなった既存の身体を遡り,より潜在的で,原理的な地点から宇宙そのものを生成する.
F では,その宇宙の表現としての可能性が探求される.
それは,システムの初期状態として void から始まる造形であり,生成されたものに対する体験者の関わり,体験者自身も一部として実装されたとみなす,より高次なシステムにまで,様々な次元を横断する.

/ F - life _proto

"F - life", 2010~, installation. light-automaton, Cprogram, aluminum frame

_光の入出力(センサとLED)をもつ最小限のシステムをモジュール化して,実空間内に展開する.
各モジュールは,自己と環境とが未分化な,彼らにとって「void」と呼べる状態から動き始める.
センサでとった光の値がモジュールの初期内部状態となり,この時モジュールと環境は同一である.
環境が変化すると,それまで同一であった内部状態と環境に,差異が生まれる.
ここからモジュールは自己領域を形成し,環境との境界となる「膜」を生成・変化させていく.
センサの入力とLEDの出力によって生成される光世界間の膜は,モジュールの明滅パターンとして,体験者に知覚される.
センサとLEDを繋ぐ回路は,自己と環境とを比較して差異を縮める性質と,メモリに蓄積された情報から差異を拡げる性質をもつ.
この回路は,モジュールを実空間に展開し,システムを作動させることで,多次元的に拡張される.
自己と環境との反応体であったモジュールは,他のモジュールにとっての光環境を生成するものとして機能する.
また,モジュールにとっての光環境には,実空間内での設置状況や,体験者の振る舞いも含まれる.
これらの次元を一つのシステムとみなした場合,要素であるモジュールの機能は非均質である.
とある状況下のモジュールは,システムに対し周期的に光を供給する機能や,情報を移動させ,保持する機能を持つことも可能である.
多次元的な回路で構築されるシステムのフィードバックを受け,モジュールの膜は形態を変化させる.
モジュールは膜の形態を光のパターンとして空間に放出し,多次元的なシステムを作動させる.
一つのLEDから放たれる光は,モジュール一個体の膜であり,空間内に点在するモジュールが連鎖させる光は,上位システムの膜である.
体験者は,変動する膜としての光世界へ入り,自身も構造的にシステムの一部として実装され,膜となる.
モジュールが生成する膜は,光という性質上,空間に拡散し,個であり全である,という様相を呈する.
システムは void から始まり,再び,体験者にとって自己と環境とが未分化な状況をつくりだす.
/ F - void sample
_暗闇の中に,一点の光がある.
そこには,コンピュータプログラムによってリアルタイムに生成されるパターンが,わずか爪ほどの大きさの液晶ディスプレイに可視化されている.
1pixelがバクテリア程の大きさのディスプレイは,肉眼でのマクロなスケールと,顕微鏡を用いたミクロなスケールで観測できる.
ディスプレイに可視化されるのは,void から発生し,... 点,線,面,立体,超立体 ... と,幾何学的な成立条件にもとづいて各次元を上下する,次元オブジェクトである.
オブジェクトは無数あり,それらは絶えず発生し,消滅し,他のオブジェクトと関係しあうことで,造形運動を行う.
オブジェクトの造形は,広大な void の,とある領域から始まり,計算の臨界状態(現在は計算機のスペックを上限として)になると,消滅する.
そして,void の別領域から,あらたな宇宙が生成される.
この宇宙は,コンピュータ内で完結した,シンプルな閉じた系であるが,系そのものや観測条件が多次元的なため,体験者の知覚次元を絶えず変動させる,ダイナミックな装置として開かれる.
::: Curator's text
/ 魚住剛「F」:新たな造形へ向けて

"F - void sample". 2009~, installation. microscope-device, cyber-display, C++program, P

_魚住剛は、わたしたち人間がもつ空間や時間的スケールにとどまらず、ミクロ/マクロ、物質/非物質的、内/外などという対立項が無効となりうるような地平における作品やプロジェクトの実現を一貫して追求してきた。これらの対立項は、人間のもつ知覚を基準に規定されたものであり、彼の活動はそれらの間に存在する境界や既存のスケーリングや価値観を問うこと、ひいては人間というものの存在や世界との関係自体を更新しようとするたゆまない運動といえるだろう。

魚住は「F」における各作品を、彼が「ヴォイド(void)」と呼ぶ初期的環境から稼働させる。
《F-void sample》(2009)では、自作の「空間発生ソフト」によって極小・極薄のLEDディスプレイ上でピクセル単位の造形が、ヴォイド的状態から点、線、面、立体、超立体など異なる次元の間を移動、加えて他の造形と関係し、発生と消滅を繰り返しつつ臨界状態へと増殖するまでが繰り返される。それらはミクロな生命のように見える。タイトルは、ヴォイドという宇宙のように広大で離散的なシステムの一部をサンプルとして可視化するという意図に由来する。時間と空間が未分化ともいえる状態から始まり、次元間をシフトしていくプロセスがここでは重視されている。来場者は、顕微鏡越しに不可逆的なプロセスを俯瞰する存在であると同時に、環境や対象と溶け合うかのような暗闇の中、光の受容体と化す。
新作の《F-life》では、来場者は光センサーとLEDを備えたモジュールがそれぞれ反応することで、全体でノンリニアかつボトムアップに光が点滅する世界に入り込む。ここでの「ヴォイド」とは、魚住によれば「モジュールにとって、自身と外部環境が未分化な状態」だという。各モジュールはそれぞれが置かれた場(環境)で稼働することで、他のモジュールからの光への反応、来場者のもたらす光の変化などの環境データを取り込み、次第に自らと環境との差異を獲得する。未分化な状態からモジュールの側に「膜」(魚住)——概念的・アルゴリズム的に「インターフェイス」と呼ぶこともできるだろう——のようなものが生成し、環境とモジュールの内部状態との関係が動的に調整されていく(初期段階では、感知される光の値が内部状態より高いとモジュールの光は消え、逆の場合発光する)。光のみに反応する各モジュールの知覚世界は、自らと環境とを分節化していく内部観測的状態にある。来場者は、空間全体を俯瞰するという意味では外部観測的であり、その内部に入ることで光を遮断し、モジュールに影響を及ぼすことで内部観測的である。内部/外部観測者という分岐が膜のように変化したり入れ子状に存在することで、世界と関わる切り口に応じて内が外へと転換することさえあるだろう。

「F」は、光を物質と現象との境界領域に存在するプロセスと位置づける。そこでの光は、いかなるメタファーにも依拠することなく、わたしたちの身体、思考そして宇宙にも通低するであろうプロセスをアルゴリズムを介して現出させるためのものである。光はわたしたちの知覚を超えて行なわれる計算や現象であり、知覚認識可能な臨界点そのものへとわたしたちを向かわせる。そのようなプロセスに加え魚住は、アルゴリズム、ハードウェア、全体のシステムや空間、そして来場者が加わったそれらの総体を新たな「造形」と見なしている。コンピュータを得た21世紀における多面的かつ動的な造形のヴィジョンが、ロジカルな設計とランダムネスの関係可能性を探求する新たな場として開かれようとしている。


四方幸子(メディアアート・キュレーター)


::: Press
/ Exhibition

このたび,ネットワーク時代における,創造性の再考やリアリティの拡張を試みる気鋭の若手アーティスト,魚住 剛 (Goh Uozumi) による初の個展「 F 」を開催いたします. 「 F 」 は,コンピューティングによってはじめて可能になる造形システムを用いて,かつてない表現領域へ挑戦するプロジェクトを,新作を含め紹介するものです. 展覧会は,観客がミクロな光を覗くことになる《F - void sample》(2009)の最新ヴァージョンと,マクロな光を浴びる《F - life》(新作) という対称的な2作品で構成されます.会場に入るとまず,光の入出力をもつ眼球のようなモジュールが数十個,光でネットワークを形成するインスタレーション《F - life》 が設置されています.そして会場奥の別室では,暗闇の中,顕微鏡で覗くと,わずか爪ほどの大きさのLCDに可視化されたコンピュータ・プログラムを,極小の光の束として見ることができる《F - void sample》が展示されています.

これらの作品はいずれも,構造的に「オートマトン」(プログラムによってボトムアップかつ自律的に稼働するシステム)を採用することで,つねに新たなパターンを生成しています.また,人間の「意識している世界」を生成するメカニズムに潜む,非連続性(目の盲点の様に,見えていない事が見えていない,といった普段気づかれない知覚の断絶.魚住はそれを,「void」と呼んでいます)に着目した制作姿勢は,作品に独特な世界観をもたらしています. オートマトンに見られるボトムアップな方向性と,実世界から見渡すトップダウンな方向性,その両方のバランスに注目することで,造形思考が,これまでにない中間的な宇宙を生成することが,ここではめざされています. 「F」における「造形」とは,「人間にとっての知覚世界」を前提として行なわれる表現の高解像度化や多様化といったものとは,本質的に異なる価値や世界観を創出しうる,と魚住は述べています.彼は,連続的な手法や価値観と対比するために,この新しい造形的志向を「離散造形」と呼んでいます.離散造形とは,「原理的であるがゆえに,あらゆる形態の可能性を潜在させ,色彩と律動を生む豊かさをもち,知覚に対して極限に薄く,イメージを超えた光」(魚住剛)としてあります.ここでは光が,感受を満たす物質性とは異なるネットワーク的関係性をもちうることで,新たな時間や空間の体験へと私たちを誘うことになるでしょう.

「人類史上で長く続いた認知レベルのものから,情報化時代に台頭した知覚レベルを扱うものへ.そして,より潜在的で不確定な領域へ.表現は,第3フェーズへと移行する.」(魚住剛)

この展覧会で,ぜひ魚住の探求する新たな知覚の領域を,多くの方々にご体験いただければと存じます.

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個展「 F 」 Goh Uozumi / 魚住剛
2010/12/13(月)-12/28(火) *会期延長:2011/1/11(火)-13(木)
11:30-19:00(最終日17:00まで) 日曜・祝日休廊
会場:ASK ? P(B1)
キュレーター:四方幸子(メディアアート・キュレーター)
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